法人を設立して事業を行うと、さまざまな支払をする必要があります。
給与、家賃、外注費、社会保険料、借入金利子・・・など挙げればきりがありませんが、この支払の中には「源泉徴収」というものが必要なものがあります。
会社を運営していく上で「源泉徴収」は重要な事務手続きですので経営者の方はある程度の知識は必要だと思います。今回はこの「源泉徴収」の概要をまとめてみたいと思います。
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「源泉徴収」とは何か
「源泉徴収」とは、所得税法に定められている制度になります。主に個人の方の所得になるもの(給与や報酬など)を支払う場合、一定の税金を支払者が差し引いて支払いをし、その差し引いた税金は支払者が税務署に代わりに納付するという制度です。
これは支払をした法人などが税金を納めなければなりませんので、納付を忘れてしまい、税務署がその事実を把握した場合には、その法人に納付するよう連絡がきます。また基本的には納付が1日でも遅れると不納付加算税という本来の税金以外の余計な税金を5~10%納付しなければならないのです。
したがって起業した方は源泉徴収というものを常に意識しておく必要があります。
そしてこの源泉徴収については基本的に相手が法人でなく「個人」である場合に注意が必要になります。支払相手が「個人」である場合には、源泉徴収しなくて大丈夫かな?と思って確認すること大切です。
こういったこともあるので会社によっては相手が個人事業者である場合、源泉徴収しなければならないので取引を嫌うケースもあります。同じ内容の支払であっても法人であれば源泉徴収しなくてもよいのに、個人事業者だと源泉徴収が必要な場合があるからです。
源泉徴収が必要な支払
一般的な法人では主に下記のようなものが源泉徴収の対象になるかと思います。もちろん下記以外もたくさんありますが、よく出てきそうなもののみピックアップしてみました。
- 給与・賞与
- 報酬
- 配当金
- 社債の利息
- 退職金
- 非居住者に対する支払(給与、利息等)
給与・賞与の源泉徴収
給与については「給与所得の源泉徴収税額表」というものを使って源泉徴収する税額を調べます。通常は従業員の給与はその会社からの1箇所だけかと思いますので、「甲欄」という欄を見て、さらに該当する扶養人数によって金額が決まってきます。この表で該当する部分の金額を給与から差し引いた上で支給します。給与の実務では社会保険料と住民税も天引きするのが一般的ですので、これらも合わせた金額を天引きします。
なお源泉徴収した税額は、暫定的な税額でもあります。こちらは年末調整によって正しい税額を算出し、過不足があれば年末に調整して最終税額が確定することになります。
また賞与も基本的には同じような方法ですが、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」というもので税額を調べることになります。
報酬の源泉徴収
個人事業所・フリーランス等に対して報酬などを支払う場合には源泉徴収が必要なケースがあります。報酬といってもいろいろなものがありますが、主に弁護士、税理士などの士業に対するもの、原稿料、デザイン料などがあります。
どの報酬が対象になっているかは、所得税法204条1項というところに記載されています。これらに該当するもので個人に対して支払うものであれば税抜支払額の10.21%(100万円以上の部分は20.42%)を源泉徴収して下さい。
逆に204条1項に記載がなければ必要ありません。個人に対する支払については税務調査でも源泉徴収もれがないかを確認してきます。源泉徴収していないものについてはこの204条1項に記載がないということをしっかり主張する必要があります。
配当金の源泉徴収
100%株主=経営者であればあまり配当を出すことはないかもしれませんが、共同出資してもらった人などがいて配当金を支払うと源泉徴収が必要になります。
基本は配当の金額の20.42%を源泉徴収します。
また起業当初はあまりないと思いますが、会社がどこかから自己株式を買い取った場合なども一部配当金として扱われるのことがあり、この場合も源泉徴収が必要です。
こちらは源泉徴収が必要だということだけ知っておけばよいレベルかと思います。
社債利息の源泉徴収
これは会社が社債を発行して資金調達した場合は社債利息を支払うことになりますが、この支払をするときには20.315%の源泉徴収が必要です。こちらもあまりないケースだとは思いますので、源泉徴収が必要だということだけ知っておけば良いと思います。
なお借入金利子の支払は源泉徴収は必要ありません。利子額全額を支払うだけで問題ありません。
退職金の源泉徴収
退職金も本来20.42%の源泉徴収が必要です。しかし、退職者に「退職所得の受給に受給に関する申告書」という書類を書いてもらって会社で保存しておけば、一定の計算式で算出した税額で良いことになっています。
一定の計算式についてはここでは記載しませんが、この計算によって税額が0になることがほとんどだと思います。したがって結果的に源泉不要となりますので、多くの場合は上記の書類をしっかり保管しておくだけで済みます。
非居住者に対するもの(給与、利息等)の源泉徴収
非居住者や外国法人に対する支払があったら源泉徴収はかなり注意が必要です。日本国内での取扱いとかなりの部分で変わってきて、ほとんどの支払について源泉徴収が必要になってきます。
おおむね20.42%の源泉徴収というケースが多いですが、異なるケースもありますので必ず確認するようにして下さい。
源泉徴収した税金はいつ納めるのか
源泉徴収した税金は、基本的に支払をした月の翌月10日までに税務署に納付する必要があります。ただし給与の支給人員が10人未満である場合に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出していれば、給与・報酬のうち一定のものについては以下のように年2回まとめて納付すればよいことになっています。
法人設立したらやっておくべき会計や税務のこと1 「税務署・都道府県税事務所・市町村への届出」
支払時期 | 納期限 |
1月~6月までに支払をしたもの | 7月10日 |
7月~12月までに支払をしたもの | 翌年1月20日 |
なお年2回納付ができるのは給与・報酬のうち一定のものだけです。
報酬のうち一定のものとは、主に税理士、司法書士などの士業への支払のみになります。それ以外のたとえばデザインの報酬などは原則どおりに毎月10日までに納付する必要があるのでご注意下さい。