法人設立したらやっておくべき会計や税務のことの2回目として、役員給与の金額の決め方をまとめたいと思います。
税理士は税務の話をするとどうしても専門用語を使ってしまいがちなので、なるべく一般的な言葉に置き換えて書きたいと思います。
なお以下のお話は社長=会社の支配権がある株主という前提でお話させて頂きます。
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毎月の支給額は同額にするのが基本
法人を設立した場合、自分の給与、つまり役員給与をいくらにするか決めておく必要があります。
なぜなら役員給与は法人税法上、基本的には毎月同額を同時期に支給する必要があるからです。(定期同額給与といいます。)
なお定期同額で払わなかった場合には、役員給与を払っても費用に計上できない部分が出てきてしまいます。そうなるとその分法人税の納税額が増えることとなってしまいます。
従って会社を設立後、設立1期中は最初に払った金額を変更することができません。金額を変更できるのは2期目の3ヶ月以内になります。そしてその次の変更のタイミングは3期目の3ヶ月以内です。(期の途中で変更できるケースもありますが、ここでは割愛させて頂きます。)
イレギュラーなケースを除いては上記のようなサイクルで、期首から3ヶ月以内に役員給与の金額を変更していきます。もちろん期が変わっても変更せずに前期と同じ金額でいくことも可能です。
創業融資の事業計画書を利用して役員給与を決める
では具体的にどのような手順で役員給与の月額を決めればよいのでしょうか。
まず役員給与とその社会保険料を入れないで計算した場合の利益がどのくらいになるかを計算する必要があります。
起業して創業融資を受けようとされている方は、事業計画書を作成する必要があります。事業計画書の中に「事業の見通し」欄というのがあり、1期目の損益見込みを記入します。これを記載するためには売上や費用を細かく見積もる必要があります。
下のようなフォーマットを使って計算するのが良いかと思います。黄色の部分以外を入力していきます。これは設立1期目の月別予算ということにもなりますね。これは誰かに提出するものでもないので、損益計算書のようにたとえば「通信費」などの科目を使わなくても、「電話代」などの名称で全く問題ありません。
なお余談ですが創業融資を受けない方も、上のような計画書を作成することをおすすめします。
見えない未来を数値として見えるようにしておけば、どういう状態であれば健全に経営していけるかがわかりますし、見えないことによる不安も軽減されることと思います。
まずは役員給与と社会保険料以外の欄を入力していけば、役員給与以外の利益がわかります。そして1期目に出したい利益との差額が役員給与と社会保険料の額となります。社会保険料は概ね給与の15%程度ですので、法人の利益を0にする場合には以下の算式で役員給与の額が計算できます。
役員給与と社会保険料を除いた利益 ÷ 1.15 ÷ 12 = 役員報酬の月額
上記の例ですと、役員給与と社会保険料を除いた利益が552万円となっていますので、
5,5200,000÷1.15÷12=400,000円
従ってこの場合は月額40万円と計算されます。
法人税と所得税(社長)の税金のバランス
役員給与を決めるための計算の方法はわかりました。
起業してせっかく社長になって自分の給料を決められるんだから、儲かったら自分の給料を高くしたいと考えるのが普通だと思います。
しかし法人の税金だけを減らそうと考えて役員給与の額が高すぎると、所得税が多くなってしまい、法人税と所得税トータルで考えると税金が高くなってしまうことがあります。
法人税の税率は基本的には一定、所得税の税率は所得が増えるにつれて税率が上がっていきます。
したがって役員給与をたくさんもらうとそれだけ所得税の税率が上がってしまうことになります。
法人税の税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
所得税の税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
それぞれ正確に計算しようとすると税金の知識がないと少々厄介な計算になりますので、税理士等に相談して法人の損益見込みなどをしっかり決めた上でシミュレーションをしたほうが良いかと思います。
ザックリではありますが、現在の税率でしたら概ね月額40万円までは所得税率の方が安くなります(厳密に計算するともう少し高くても大丈夫です。)。
その場合は法人が赤字にならない限り、税率の違いで損をすることはありませんので、その場合は月40万円をもらって頂いて問題ありません。
もちろん会社がたくさん儲かって所得税を払ってでも自分のお金がほしいという方は、役員給与を高くして頂いても全く問題ありません。
税金を減らすことだけを考えて生きていくわけではありませんので、たくさん利益を出して税金はしっかり払った上で、自分もしっかりお金をもらうということは、個人的にはむしろ素晴らしいことだと思います。
金融機関からの融資を予定している場合の注意点
金融機関から融資を受けたい場合、次のような状況は金融機関の今後の融資姿勢が良くない方向に影響する可能性があるため、避けた方がいいです。
①役員給与の金額が多すぎて赤字決算になり、純資産がマイナス(債務超過)になる。
理想的には法人が黒字決算で着地するのが理想ですが、設立1期目からそんなに順調にいくことは少ないと思います。また当面融資を受ける予定がないという場合には赤字であっても特に問題はないかと思います。
しかしこれから融資を受けるような場合には「純資産がマイナス」(債務超過)になると厳しいです。
「純資産がマイナス」(債務超過)というのは、設立1期目の場合、資本金より大きな赤字が出ることをいいます。資本金が100万円であれば1期目で100万円を超える赤字が出るようなケースです。
このような場合は銀行融資の見込みはほぼないと言えると思いますので避けるようにして下さい。
逆にいうと、設立時の資本金が多ければそれだけ純資産がマイナスになる可能性は低くなりますので、最初の資本金の設定も重要ということがいえると思います。
②役員給与が少なすぎて生活費が足りなくなり、法人から社長へ貸付をしている
これも銀行からの印象はよくありません。銀行としてはこの貸付が本当に会社に戻ってくるのかどうかが懸念材料となるからです。
つまり潜在的な損失となる可能性があると判断します。
たとえば決算上利益が100万円出ていても、社長への貸付金が300万円あった場合、銀行の見方が厳しければこの300万円は損失とみなして実際には今期の損益はマイナス200万円だと見られてしまうわけです。
さらに資本金が100万円だったとすると、実質的には①のような「純資産がマイナス」の状態になり、融資は難しいでしょう。
役員給与を決定したが払う資金がなくなってしまった場合はどうするか
今まで述べてきたとおりのことを考慮してようやく役員給与の月額を決めました。
設立した月から毎月40万円を毎月25日に支払うと決めて、支払を続けていきました。
しかしある月になって今月の資金繰り表を見ると、月末に資金が足りなくなることがわかりました。融資で資金調達するにはもう時間がありません。
こういった場合には、役員給与の支払を一時的に止めておいても大丈夫です。
なおこの場合でも毎月費用には計上されていきますので決算書の利益は減少します。払わなければ決算の数値を良い方向にもっていけるわけではないのです。
注意点としては
- 役員給与分の源泉所得税だけは納付期限までに納付しておくこと
- 社会保険料は支払が必要
- 支払ができるようになったらすぐに支払う
ということです。
特に源泉所得税については税務署に対して、役員給与が定期同額であることを認めてもらうための既成事実をつくることになります。源泉所得税の納付しておくことによって毎月役員給与を払う意志表示をしていることになります。
極力こうならないように資金計画をきちんと立てておきたいものですが、どうしてもという場合はこのように対処するようにしましょう。