平成18年に会社法が改正され、以前より法人の設立が容易になりました。これは資本金が1円からでも設立が可能になったためです。
これによって個人事業を行っている方が法人化(法人成り)するケースが増加しました。
一般的に、個人事業が拡大していくと法人化して事業を行った方がさまざまなメリットがあります。法人化を検討されている方のために、簡単に法人化のメリットをまとめてみたいと思います。
今回は特に税金面のメリットについてまとめてみたいと思います。
Contents
税制はどう違う?
税金については個人事業は所得税の対象、法人は法人税の対象となります。個人事業も法人も消費税はどちらも基本的に同じ制度と考えてよいでしょう。
所得税と法人税はそれぞれの税法は違いますので、同じ事業を行っていたとしても税金の額が変わってきます。
具体的にどのような違いがあり、法人化するとどのようなメリットがあるか、以下で簡単にまとめていきます。
税金で得をする10のメリット
所得が大きいと法人税率の方が低くなる
所得税の対象である個人事業やフリーランスは、超過累進税率といって、所得が高くなるにつれて税率が増加する仕組みになっています。(最低税率は5%、最高税率は45%になります。)
これに対して法人税は基本的に一律23.2%、さらに規模の小さい法人であれば所得800万円以下の部分は15%になります。
このように所得が多くなれば税率は法人の方がかなり有利になっております。
役員給与の給与所得控除で税金が低くなる
個人事業の場合、事業の収入から必要経費を差し引いた金額が所得となり、この金額に対して税金がかかります。したがって事業主本人への給与という形で必要経費にすることができません。
これに対して法人では事業主は代表取締役となり、会社から役員給与を支給することにより、その給与を法人の経費とすることができます。
さらに事業主がもらった役員給与は所得税の対象となりますが、給与所得といって給与所得控除を受けて所得を減らせるので、その分税金が減少します。
これによって所得税と法人税トータルでは法人の方が税金が安くなります。
親族への給与を支払い、所得を分散できる
個人事業の場合、事業主と生活費を同じにする親族への給与は原則必要経費にすることができません。(ただし青色事業専従者への給与のみが認められております。なお青色事業専従者給与を支給する場合、事前の届出が必要です。)
これに対し法人では、家族が役員や従業員となって働いていれば給与を支給し、法人の経費とすることができるので、税金を減らすことが可能です。
また所得税は超過累進税率ですので、事業主一人がたくさんの所得を得ると税金が高くなります。しかし法人で家族に給与を支給すれば所得が分散されるため、それぞれの税率が低くなるため、税金を減らす効果もございます。
退職金を支給することができる
上記の給与と同様に、事業主や事業主と生活費を同じにする親族への退職金を必要経費とすることができません。
法人の場合、適正な金額であれば代表取締役やその家族役員・従業員に対して支給して法人の経費にすることが可能です。
また退職金は所得税法上最も税金が低くできる所得ですので、かなりの節税効果があるといえます。
保険に加入して一定額を法人経費にできる
保険といってもいろいろな種類の保険がありますが、わかりやすい例として定期保険で考えていきます。
個人事業では生命保険に加入していても事業の経費にはならず、生命保険料控除といって限られた金額しか税金を減らせません。
これに対して法人で福利厚生として保険に加入すれば、定期保険は全額法人の経費にすることができます。(保険金の受取は法人にする必要があります。)
このように同じ金額の保険を支払っても節税できる金額としては法人の方が有利となります。
賃貸の自宅を法人契約にして家賃の一部を法人経費にできる
自宅が賃貸である場合、賃貸借契約を法人にして社宅として取り扱うことによって家賃の一部を法人の経費にすることができます。
いくらを経費にできるかについては複雑な計算が必要になりますので今回は割愛いたします。
赤字を10年後まで繰り越して利益と相殺できる
所得税・法人税には事業などで赤字が出た場合、翌年以降利益が出たときにその赤字を相殺できる制度があります(純損失または欠損金の繰越控除)。
しかし所得税は赤字の翌年以降3年間しか繰り越しができませんが、法人税は10年間可能になっております。
この制度は税金を減らす効果としては大きいので、この期間の違いは非常に大きいものであると思います。
消費税を2年間免税にすることができる
消費税は通常2年前の期間の売上が1,000万円以上になると課税事業者として申告・納付が必要になります。逆に2年前の売上が1,000万円未満であれば消費税の納税は免除されています(特定期間についてはここでは考慮しません。)
しかし法人を新しく設立して個人事業を移行した場合、法人の最初の2年間は2年前の売上というものがありませんので、消費税の納税はありません(法人の資本金は1,000万円未満にする必要があります。)。
消費税の負担は意外と大きいものです。このメリットも活用していきたい部分になります。
年によって減価償却をしない選択ができる
個人事業で事業用資産の減価償却については毎年一定の償却額を必ず必要経費に計上しなければなりません。
これに対して法人では会計上減価償却費を計上していなければ、法人の経費に算入されませんので、赤字を多く繰り越したくないような場合には減価償却費を計上しないという選択も可能になっています。
事業年度を自由に定められる
個人事業では毎年必ず1月1日~12月31日までの期間で確定申告をしなければなりません。
法人では定款で自由に事業年度を定めることができますので、決算日をいつにするか法人の都合で変更することも可能です。
したがって法人では売上が多い繁忙期を極力事業年度のはじめになるよう設定することにより、余裕をもって節税対策をすることが可能になります。
直接的に税金を減らす効果はありませんが、戦略的に節税対策をとるためには有効といえます。
まとめ
このように個人事業者やフリーランスが法人化をすると税金面でのメリットはたくさんあります。
一般的に事業の売上が1,000万円を超えるときや、事業の所得が400万円程度を超えるときには法人化をしたほうが得、と言われていますが、税金だけで考えた場合には確かにほとんどのケースで得をすることが多いです。
しかし法人化するともちろんデメリットもあります。特に税金以外の部分ではかかってくるお金が増えるのが普通です。したがってそういった部分も含めて考えて本当に法人化のメリットがあるのかを判断することが必要になるのです。
しかも法人化をするときに重要なのはタイミングです。このタイミングを間違えると思いのほか多額の税金を負担したり、経費の負担が予想より大きくなってしまい、個人のままの方がよかった、なんていうこともあります。
実際に検討する場合には法人化後の追加経費、税金、社会保険料は当然のこと、将来的な退職金の見込額、受け取れる年金概算額など、あらゆる項目をシミュレーションし、タイミングを見計らった上で計画的に実行するのが大切だと思います。